一度やめても大丈夫:運動による心の健康維持を再開するための具体的なステップ
運動を心の健康のために始めたものの、何らかの理由で習慣が途切れてしまったという経験をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。忙しさ、体調や気分の波、あるいは単にモチベーションの低下など、運動が継続できなくなる理由は様々です。そして、習慣が途切れたことに対して、ご自身を責めてしまったり、「自分には無理だ」と感じてしまったりすることもあるかもしれません。
しかし、運動習慣が一時的に途切れることは、決して特別なことではありません。完璧に継続することだけが目標ではなく、心の状態に合わせて調整し、必要に応じて立ち止まり、そしてまた無理のない形で再開していくことも、メンタルフィットネスにおいては非常に重要なスキルと言えます。
この記事では、運動習慣が途切れてしまった際に、自分を責めずに心の健康維持のための運動を無理なく再開するための具体的なステップと、心の声に耳を傾けながら継続していくヒントをご紹介します。
運動が心の健康にもたらすもの:なぜ再開が大切なのか
運動が私たちの心に良い影響を与えることは、多くの研究によって示されています。体を動かすことで、脳内ではセロトニンやエンドルフィンといった、気分を高揚させたり幸福感をもたらしたりする神経伝達物質が分泌されます。また、脳由来神経栄養因子(BDNF)のような物質が増加し、脳の神経細胞の成長や維持を助けることで、ストレスへの耐性を高めたり、認知機能を改善したりする効果も期待できます。
運動習慣が途切れると、これらの恩恵から一時的に遠ざかってしまうように感じるかもしれません。しかし、再開することで、再びこれらの良いサイクルに入っていくことができます。また、「もう一度始めてみよう」と行動を起こすこと自体が、自己肯定感や自己効力感を高め、「自分は変われる」「状況を改善できる」という自信を取り戻すきっかけにもなります。運動そのものの効果に加え、再開という行為そのものが、心のリカバリープロセスにおいて大きな意味を持つのです。
運動習慣が途切れてしまった時の「再開」ステップ
では、具体的にどのように運動習慣を再開していけば良いのでしょうか。心の状態に寄り添いながら進めるためのステップをご紹介します。
ステップ1:自分を責めないマインドセットを持つ
最も大切な最初のステップは、「運動ができなかった自分」を責めないことです。習慣が途切れたことには必ず理由があります。その時のご自身の状況や心の状態を理解し、受け入れることから始めましょう。「まあ、そんな時もあるよね」「今は休息が必要だったんだな」と、ご自身に寄り添う言葉をかけてあげてください。自己否定は、次の行動へのエネルギーを奪ってしまいます。失敗ではなく、「一時停止」や「調整期間」だったと捉え直すことが、再開への第一歩となります。
ステップ2:なぜ途切れたのか、やさしく振り返る(原因分析はほどほどに)
なぜ運動習慣が途切れてしまったのかを、少しだけ振り返ってみましょう。ただし、深入りしすぎたり、原因追及のためにご自身を追い詰めたりする必要はありません。「目標が高すぎたかな」「疲れているのに無理してやろうとしていたな」「特定の時間にやろうとしたけどうまくいかなかったな」など、客観的に状況を把握する程度の振り返りで十分です。この振り返りは、次に再開する際に、よりご自身の状況に合った方法を選ぶためのヒントになります。
ステップ3:再開の目標設定を見直す:完璧でなくて良い
以前の目標が継続の妨げになった可能性も考えられます。再開にあたっては、目標を大幅に引き下げることを検討してください。「毎日30分ジョギングする」ではなく、「週に1回、5分だけ近所を歩いてみる」「気が向いた時にストレッチを数種類やる」など、「これならどんなに疲れていてもできそう」と感じられるレベルまでハードルを下げましょう。目標は「継続すること」ではなく、「小さな一歩を踏み出すこと」に置きます。運動の種類も、以前やっていたものにこだわる必要はありません。その時の気分で「やってみたい」と感じるものを選んでみましょう。
ステップ4:超低ハードルからの開始:ほんの少しから始める
見直した目標に基づき、実際に行動を開始します。最初は「超低ハードル」で構いません。
- 自宅で: 椅子に座ったまま手足を動かす、簡単なストレッチを1〜2種類行う、好きな音楽を聴きながら軽い足踏みをする(1曲分だけ)。
- 屋外で: 家の周りを一周だけ歩く、ポストまで歩きに行く、いつもより一駅手前で降りてみる。
- 時間: 運動する時間を「〇分」と決めず、「〇〇が終わるまで」「この曲が終わるまで」のように、活動で区切るのも効果的です。
重要なのは、「できた」という感覚を得ることです。どんなに小さな一歩でも、再開できたこと自体を肯定的に捉えましょう。
ステップ5:行動のトリガーを設定する
運動を「やろう」と思い出すきっかけ(トリガー)を設定すると、行動に移しやすくなります。
- 「朝起きてコップ一杯の水を飲んだら、ストレッチを1回やる」
- 「ランチ休憩の終わりに、オフィスビルの周りを1周だけ歩く」
- 「テレビを見始めたら、CM中にスクワットを5回やる」
既存の習慣や日課に運動を紐づけることで、意識的に「よし、やるぞ」と気合いを入れなくても、自然と行動につながるようになります。
ステep6:記録や振り返りの工夫:できたこと、心地よさに焦点を当てる
再開した運動を記録することも有効ですが、完璧さを求めすぎないことが大切です。運動したかどうかだけでなく、「今日は少し体が軽かった」「外の空気が気持ちよかった」「この動きは心地よいな」といった、運動を通じて感じたポジティブな感覚や「できたこと」に焦点を当てて記録してみましょう。記録ツールは、スマートフォンのメモ帳や簡単なチェックリストなど、ご自身にとって最も手軽なもので構いません。完璧な記録を目指すのではなく、運動とポジティブな感情を結びつけるためのツールとして活用します。
運動以外の心のケアとの連携
運動は心の健康維持に有効ですが、それだけで全てを解決できるわけではありません。休息、十分な睡眠、バランスの取れた食事、友人や家族との交流、マインドフルネスの実践など、他のメンタルヘルスケアと組み合わせて行うことで、より包括的な心のケアが可能になります。
心が疲れている時は、無理に運動するよりも休息を優先することも大切です。運動を再開するエネルギーがないと感じる時は、まずは質の良い睡眠を心がけたり、栄養のある食事を摂ったりすることから始めてみましょう。そうしたケアが、運動を再開するための土台となります。
また、運動習慣の途切れや心の落ち込みが続く場合は、一人で抱え込まず、大学のカウンセリングサービス、専門の相談機関、信頼できる友人や家族に相談することも検討してください。専門家のサポートを受けることは、決して弱いことではなく、ご自身の心を守るための賢明な選択です。運動は、こうした他のケアを補完し、相乗効果を生み出す強力なツールとなり得ます。
メンタルフィットネスは旅である
運動による心の健康維持は、短期的な目標達成ではなく、一生涯にわたる「旅」のようなものです。その道のりでは、立ち止まったり、道に迷ったりすることもあるでしょう。習慣が途切れることは、旅の一時停止や、新たなルートを探索するための休憩時間のようなものです。
大切なのは、完璧でなくても良いと知り、ご自身の心の声に耳を傾けながら、無理のないペースで「また一歩」を踏み出すことです。この記事でご紹介したステップやヒントが、運動を通じたメンタルフィットネスの旅を再開するための、そして継続していくための、少しでもお役に立てれば幸いです。あなたのメンタルフィットネスパートナーとして、私たちはいつでもあなたの小さな一歩を応援しています。